

先日、福岡県行政書士会の研修で講師を務めました。
その際、参加者の皆さまから特に反響をいただいたテーマがあります。
それは──
「国庫帰属制度は“最終手段”として位置づける必要がある」
という視点です。
制度の仕組みよりも、
相談者がどんな順番で選択肢を判断すべきか。
ここを丁寧に伝えることこそ、専門家の重要な役割だと思っています。
■ まず提示すべきはこの4つ
土地を「手放したい」と相談されたとき、
専門家として示すべき順番は、実はとてもシンプルです。
① 売却(可能なら最優先)
売れるのであれば、これは最も負担が少ない選択です。
ただし、
立地
建物の状態
接道
などの条件で“売れない土地”も多く存在します。
② 無償譲渡(隣地・地域の人へ)
“もらってくれる人”が見つかるケースも、ゼロではありません。
ただし、
実務では極めて少なく、
“無償でも要らない”と言われるのが大半です。
ですが、相談者自身が「誰も引き取ってくれない」と思い込んでいる場合もあり、
一度だけでも隣地や近隣の方に当たってみると方針がハッキリすることがあります。
③ 管理を続ける(しばらく様子を見る)
固定資産税が小規模であれば、
「急いで手放す理由がない」ケースも多いです。
国庫帰属は審査に1年〜1年半かかることが増えています。
その間に、
「もっと探せば売れたかもしれない」
「無償譲渡の相手が見つかったかもしれない」
「そこまで負担じゃなかった」
という後悔が生じるリスクがあるため、
あえて“様子を見る”という選択肢を提示しておく方が後悔が少ないのです。
④ 国庫帰属制度(最後の選択肢)
ここで初めて国庫帰属制度が登場します。
この制度は、
「どうしても管理できない」
「売れない・譲れない」
というケースのための“出口”です。
単なる捨て場所ではなく、
自治体・国が慎重に審査する制度であり、
申請までに手間や費用を要することもしばしばあります。
だからこそ
最終手段として位置付けることが相談者の安心につながる
これが私の考えです。
■ 途中で“心変わり”が起きることもある
実務では、
国庫帰属の申請を進めながら、途中で他の選択肢が見つかる
というケースもゼロではありません。
たとえば──
隣地の方から「やっぱり使いたい」と言われた
親族内で管理を引き継ぐ話が整った
など。
申請後、国庫に帰属される前であれば取り下げ可能ですが、
それまでの費用や手間は戻ってきません。
だからこそ、
専門家としては最初に “本当にこの制度がベストなのか” を
相談者と一緒に確認しておく必要があります。
■ 行政サービスも活用できる(北九州市の例)
私が拠点とする北九州市では、
国庫帰属に進む前に活用できる制度が複数あります。
北九州市空き家バンク
地域共生マッチング事業(空き家活用)
空き家リノベーション促進事業(補助金)
自治体によって内容は異なりますが、
“手放す以外の選択肢”を作る工夫が多く用意されています。
■ 専門家の役割は「判断材料を揃えること」
相談者は、
「どうしたらいいのか分からないまま困っている」
という状態が多いものです。
専門家の使命は、
相談者が自分の状況を理解し、
最適な選択肢を納得して選べる状態に導くこと
であり、
“国庫帰属を勧めること”でも
“早く手放させること”でもありません。
相談者が、
自分の価値観・生活・家族事情に照らして
納得のいく選択ができるようになること。
これが、私の考える支援の本質です。
■ まとめ
国庫帰属制度はとても有効な制度です。
しかし──
「最後のカード」として扱うことが、
相談者の後悔を防ぎ、安心を生みます。
そのために専門家が示すべき順番は、
売却
無償譲渡
管理継続
国庫帰属制度(最終手段)
の4つ。
相談者が自分で判断できる環境を整えることこそ、
専門家としての価値であり、責任であると考えています。